以前に5Gにおける MEC (Mobile Edge Computing) の概要という記事を書き、ここで5GにおけるMECの実装の概要を簡単にまとめました。それを踏まえて今回はパケットの転送方法に関して調べました。
5G システムアーキテクチャ
5Gのシステムは次の図で表されます。
データパケットの転送に関係する部分だけピックアップすると以下の要素が重要になります。
- UEは User Equipment (端末)
- (R)ANは (Radio) Acccess Networkの略。通常は基地局を意味するのだが、WiFiを含めた様々なアクセスポイントをサポートするため Radio という名前はは括弧で囲われている。
- UPFは User Plane Function の略。スマホなどで利用するデータパケットの転送を担うルーター。
- DNは Data Noetwork の略。インターネットや、何らかのサービスを提供するサーバが接続されたネットワークの総称。スマホでWebを見るときなどはインターネット上のサーバに接続するわけですが、そのサーバはこの図では DN の中に位置することになります。
- SMF は Session Management Function の略。UPFのルーティングテーブルを管理する
この図ではUPFは1つしか描かれていませんが、実際には複数のUPFが相互接続してネットワークを構築しています。N9 という線(インターフェイス)がUPFの間で結ばれているのはそれを意味しています。
あと、UPFが User Plane Function と呼ばれているのは、ネットワーク仮想化(NFV)を意識しているためです。
データ転送の大まかな説明
とりあえず5Gにおけるデータの転送方法については以下のようにまとめることができるかと思います。
- 携帯端末が使うデータパケットの転送はUser Plane Function (UPF)がルーターとして機能することで実現する。
- 端末はDN内のサーバと通信をする際、DNが接続されているUPFとの間でPDU (Packet Data Unit) Sessionというトンネルを確立する。PDU Sessionでは通常のインターネットで使われるIPv4パケットなどを転送することができるが、その転送の様子はパケットからは隠蔽される。
- MECを使う場合、端末はインターネットだけでなくMECサーバが接続されたUPFとの間でも通信をする必要が生じる。そこでPDU Sessionはインターネットに繋がるUPFとMECサーバがつながるUPFの2箇所にアンカーポイント作る。
- PDU Sessionが複数のアンカーポイントを持つ場合はデータの内容に応じた分配を実現する必要がある。これについてはUL Classifier か IPv6 multi-homingのいずれかの技術が用いられる。
PDU Session の位置
PDU Session はDNが接続しているUPFと端末の間に確立されます。したがって下図のようになります。この図ではわかりやすくするためにUPFを2つ描いています。
MECサーバの位置
MECサーバは先程の図で言うところの DN の部分に設置されます。
MECサーバは携帯通信事業者が独自にサーバを設置することが考えられますが、携帯通信事業者ではない別の企業がサーバを運用してそれを5Gネットワークに接続する、という方法も採用する予定になっています。そのためMECサーバは5Gアーキテクチャの中では DN という、あくまでも5Gネットワークの外側に位置するように設計されています。
どのUPFを使うかは自由に決められる
MECサーバはUPFに接続(アーキテクチャの図でいうN6インターフェイスに接続)します。どのUPFに接続するかという点については、PDU Sessionのアンカーポイントを設定できる機能を有したUPFに限定されますが、その条件さえクリアできれば自由に選ぶことができます。
LTEのコアネットワークでは5GにおけるUPFにあたるルーターがS-GWとP-GWのように種類分けされていました。そのため機器の選択にいくらか制限がかかっていました。しかしながら5GではUPFというもので統一されているため機器の選択に関する制限は緩くなっています。さらにネットワーク仮想化 (NFV) によって機器の設定についても自由度が高まります。その結果、上の図のようにMECサーバを設置するUPFは基地局の近くのものでもコアネットワーク内のものでも、どれを選択しても良いことになります。
じゃぁどのUPFを使うべきなのか
具体的にどのUPFを選択したらどの程度の性能が出るのかとか、基地局の近くにどの程度MECサーバを置けるのかといった話は3GPPの資料には無さそうです。それもそのはずで、3GPPはあくまでも仕様を策定することがメインなので、具体的な運用については通信事業者がそれぞれ独自にやっていく必要があるからです。
余談
UPFをルーターと説明していますが、資料によってはUPFとルーターが別物として扱われているものもあります。上の図でも、円柱状のものはおそらくルーターで、UPFとは別物として描かれています。
このあたりはちょっとはっきりしていないのですが、「狭義の」UPFはルーティング機能だけでなく、アンカーポイントを設定してDNとの接続機能を提供したり、ポリシーコントロールをしたりする機能を有しているものなのかな?って思います(ちょっと自信ありません)。ルーティングしか行わないものは広義のUPFかもしれませんが、単にルーターと表現するのかもしれません。
PDU Session
PDU Session のプロトコルスタックは次の図のようになっています。
(5G-AN は5Gアーキテクチャの図でいう(R)ANのことです)
この図の中で重要なのは
- PDU Layer
- 携帯端末が送受信するデータのレイヤ。
- もともと PDU とは Packet Data Unit の略。今回の場合はスマホが発する IPv4 パケットや IPv6 パケットなどが PDU に該当する。
- GTP-U
- GPRS Tunnelling Protocol for the User plane
- PDU をカプセル化するレイヤ
の2つになります。
GPRS は General Packet Radio Service の略なのかなと思います。このプロトコル自体は2Gの頃に使われていた技術のようですが、5Gではそれとどう異なるのかよくわかっていません。流石に2Gの頃の転送速度は遅すぎるので何らかの改良がされているとは思いますが…。
PDU Session 分岐とルーティング
MECサーバ(エッジサーバ)を使う場合、必ずしもすべてのパケットがMECサーバ宛というわけでは無いと考えられます。場合によっては既存のクラウドサーバとの通信が必要になるかもしれません。こういった場合に対応するために、 PDU Session は複数のアンカーポイントを持ち、1つのセッションで複数の通信相手と結びつくことができます。
(図の引用元: http://4g5gworld.com/blog/session-and-service-continuity-evolution-5g-networks)
複数のアンカーポイントを持つ場合に問題になるのが、内容に応じたデータパケットの分配になります。これについては先程も述べましたが
- UL Classifier
- IPv6 Multihoming
の2つのうちどちらかの方法を使ってパケットの選択的な分配を行います。
UL Classifier
UL Classifier (Uplink Classifier) とは、PDU Session上に分岐ポイントを定義し、その分岐ポイントでパケットの分岐を行う機能です。
PDU Session は SMF (Session Management Function) が管理し、SMFはUPFにルーティングテーブルを渡します。UL Classifierを使ってパケット転送の分岐を行う時は、SMFがUL Classifier を定義するポイント(つまりUPF)にその機能を追加することで実現します。
IPv6 Multihoming
IPv6 Multihoming は5Gで新たに導入される技術ではなく前からあったものです。気持ち的には10年前ぐらいに話題になっていたけれど結局広まらず現在に至る技術なイメージですが。
(Google Trend で Multihoming を調べた結果)
IPv6 Multihoming の説明はここでは割愛します。
ここで使われる IPv6 パケットは携帯端末自身が発するパケットであり、PDU Session上ではカプセル化されるデータになる点に注意が必要です。PDU Sessionでデータを分岐する際には、このカプセル化されたパケットの中身を見ながら分岐をすることになります。したがって IPv6 Multihoming でパケットを分岐させるためには、スマホなどの携帯端末が IPv6 Multihoming をサポートしていることが必要だと思われます。
参考資料
- “MEC in 5G networks”, ETSI White Paper No.28 (2018-06)
- “System Architecture for the 5G System; Stage 2 (Release 15)”, 3GPP TS 23.501 v15.3.0 (2018-09)
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